早めに夕飯の買い物を終え、家に戻るとソファーに横たわる彼の姿を見つけた。
最近は忙しいらしく何時に帰ってくるかわからない状態で、今日も遅くなるんだろうな、と思っていたか
ら少しほっとした。(今日ぐらいはちゃんと一緒にいてもらわなくちゃ困る)
両手に抱えていた買い物袋をテーブルの上に置き、寝息をたてている彼のそばに近づく。
しゃがんで顔を覗き込み、おーいと小声で話しかけると、んーっといった(普段の彼からは想像がつかな
いような可愛らしい)声を出して寝返りをうった。
寝返りをうった所為で頬にかかってしまったきれいな金色の髪をそっとよけてあげる。
窓から射す冬の午後のやさしくあたたかい光が彼の髪をよりいっそう美しく照らした。
こんなぐっすりと眠る無防備な彼を見るのは久しぶりでなんだかとっても嬉しかった。
わたしたちが出会ってから、もう三年もたつのかーなんて思いながら彼の髪をゆっくりと撫でる。
三年なんて、言葉にするととても長く感じるけれど、実際に過ごしてみるとほんとうにあっという間だっ
た。色んなことがあったけど、わたしたちはわたしたちでうまくやれていたんだと思う。
ぶっきらぼうな彼なりの愛しかたは、わたしにとってとても居心地のよいものだった。
ただひとつ、文句をつけるとしたら、メロは滅多なことがない限り、好きだとかそういう類いのことを言
ってはくれないことぐらいかな。
「少しは好きだとか言いやがれコノヤロー」
女の子はいつでもそういうことを言って欲しいものなのだよ、とかガラにもないことを思ってしまうのは、
今日が特別な日だという状況のせいだ、きっと。きっと、そう。
「生まれてきてくれて、ありがと」
こんな台詞は面と向かってなんて到底言えそうにないから、(フンって鼻で笑われて終わるにちがいない)
いっぱいいっぱいの気持ちをこめて、心地よさそうに寝ている君にありがとうのことばを。
A HAPPY BIRTHDAY
黙っていればほんとうに天使みたいにかわいいのになー。
(こんなことぜったいにメロの前では口には出せないけど)
さて、彼が起きる前にチョコレートケーキでも作りますか。そう思い立ち上がろうとした瞬間、突然目の
前のメロの瞳が開いた。
重なる視線に、一瞬胸がびくりとはねる。
「ごめん、起こしちゃっ……?」
すべて言い終える前にメロの右腕がのびて、ぐっと頭を引き寄せられ、、そう一言彼の口から零れた
後に、私の口は彼の唇によってふさがれた。
「好きじゃなきゃ、こんなことしねーよ」
「起き、てたの?」
「……」
「ねえメロ、もう一回言って!」
「は!?」
「さっきの台詞、もう一回言って!」
いやだ、そう短く吐き捨ててメロは立ち上がりわたしに背を向けてしまった。
ちらりと見えた耳がほんのり赤く色づいていたのに気付き、くすくす笑いながら誕生日おめでとうと言う
と、彼は至極不機嫌そうな声で、別にめでたくなんかねーよと言った。
強引なキスも、素直じゃないところも、不器用な言葉もすべてが愛おしいと思う。
ああ、メロを好きになってよかった。心からそう思うんだ。
生まれてきてくれて、本当にありがとう。
そっぽをむいてしまった彼の背中にむかってもう一度心の中でそっと告げた。
(少しはやいけどめろさんほんとおめでとう 071206)