raining





どれくらい時間が経ったのだろう。
体を激しく叩きつける雨の所為で、髪も服も心もずっしりと重く濡れていた。
つま先はじんじんと痛み出して、だらしなく垂らした両腕は体温を奪われ少しずつ震え始めた。




「じゃーな」




私たち二人の思い出は、彼のそんな短い一言であっさりと幕を閉じた。
バイクに跨って走り去る彼の後姿を、夜の道路に光った赤い明かりを、タイヤが巻き込む水しぶきを、
ぼんやりと見つめながら、そのままそこから一歩も動けなくなっていた。

どんどんどんどん雨は強くなっていく。

最後の最後まで彼は彼のままだったし、私は私のままだった。
好きだ、そのそっけない一言で始まった私たちの恋。彼は生き方も、愛し方もいつも不器用でまっすぐ
だった。そんな彼の隣が居心地良くて、私はいっぱいいっぱい幸せだった。色んな大切なものをもらっ
たんだ。だけど、私はメロに何かを与えてあげられたのかな?




「ごめん、ね」




結局、最初から最後まで何も与えてあげることなんてできなかったんだ。
嫌われたくない。
いい子でいなきゃいけない。
そんなことばかり考えていて、一番大事なことも、言わなくてはいけないことも何一つ伝えることが出
来なかった。

本当に言いたいこと、本当に欲しいもの、それらを口に出すのはどうしてこんなにも難しいんだろう。





「……待ってよ」





今頃口に出したって、もう何もかも遅いんだ。
別れよう、そう言われた時なぜ私はあんなにもすんなりと受け入れることができたのだろう。
聞き分けのいい子のふりをできたのだろう。
いいよ、私が笑顔でそう告げた時、悲しそうに笑って私の髪を撫でたメロの顔が記憶の底にこびり付い
て取れない。




「行かないで。わたっ、しも……」





――――連れてって。





ことばに乗せた想いは、騒がしく鳴り響く雨音に消えて彼にはもう届くこともない。
まだまだ伝えたいことたくさんあったんだ。
話したいこと、して欲しいことたくさんたくさんあったんだ。
だけどもう、何もかも遅いんだ。
雨はそんな愚かな私を嘲笑うように、優しく包み込むようにいつまでもいつまでも降り続けた。































(071005 あとのまつり。)



photo by 七ツ森