朝から今日は何だか気分が悪かった。
ソファーに深く座り込み、煙草に火を点ける。
肺に煙を送り込むと、心の靄と白い煙が交じり合い、いつも以上に吐き気がした。
「なぁ、俺たち死ぬのかな?」
銃の具合を確かめているメロの背中をぼんやり見つめながら、最近ずっと頭に浮かんでいた疑問が
ふいに口から零れた。
メロは、馬鹿なこと云ってんじゃねーよと呟いてから、こちらを振り向き俺に銃口を向けた。
それからゆっくり後ろに倒れこみ、床に寝転がったメロは銃を置いて天井を見つめながら、
「でも、もし少しでもヘマしたら、確実に死ぬだろうけどな」
と云って笑った。
死ぬことなんて怖くなかった。
世界に、未練はない。
現に俺はこうやって毎日毎日身体に有毒な煙を取り込み、世界に有害な煙を吐き出して。
世界に有益なことなんて何一つしないまま、死に一歩一歩近づいていってる。
思い返せば、糞みたいな人生で。
(いや、むしろ自分からそういう道を故意に選んでいたのかもしれないが)
好きな女一人、幸せにしてやることだって出来なかった。
サヨナラも告げずに消えた俺を今頃恨んでいるんだろうな。
「死ぬのは、別に怖くねぇと思ってたんだ」
「んあ?」
むしろ、手っ取り早く死んでしまいたいと思ってた。
でも最近、考えてしまうんだ。
キラ事件に関わってから、死が身近になってから。
俺が生まれてきた意味はあったのか?って。
「俺が死んだら、泣いてくれるヤツっている、のかな……」
「だから、馬鹿なこと云ってんじゃねぇよ」
「キラに俺たちが負けるってことを言ってるわけじゃなくてさ、いずれ俺にだって死ぬ時は来るだ
ろ、その時に誰か泣いてくれるヤツはいるのかな、って」
一人でも、泣いてくれればと思うんだ。
それだけでも少しだけ、生きていた意味が生まれる気がする。
誰か一人でも俺がこの世から消えたことを悲しんでくれたら、と思うんだ。
いや、誰か一人っていうか、アイツが涙を流してくれたら……。
「……は泣いてくれるかな?」
煙と共に吐き出したその言葉は、ひどく弱弱しく、小さな薄暗いこの部屋に響いた。
メロは大袈裟に溜息を一つして起き上がり、テーブルの上の板チョコを齧った後で、アイツは絶対
泣くに決まってんだろ、と云った。
いつも心配ばかりかけて、寂しい思いをさせて、
それでも好きだと云ってくれた。
糞みたいな世界の中で、手放したくないものを手に入れてしまっていたことに最近やっと気付いたんだ。
メロの云った絶対という言葉は、朝からのもやもやした気持ちをいくらか楽にしてくれた。
「ってゆうかそんなこと云ってないで、全部終わらせて、生きてに会いに行ってやれよ」
「今からでも、やり直しきくか?」
「そんなもんいくらでもきくだろうが。生きてれば、な」
「そっか」
ホントは世界も捨てたもんじゃないんだ、君がいるから。
どうやら俺は、いつの間にか死ぬのが怖くなってたみたいだ。
君ともう少し一緒に歩きたい。
「そろそろ時間だ、行くぞ」
メロの声に急かされて、煙草を吸殻が随分とたまってしまった灰皿に押し付ける。
「メロはいいよな、高田とかいういい女バイクに乗っけるんだろ?」
「……マット、遊びじゃねーんだぞ。」
冗談を言いながら玄関を出る。
もう後戻りは出来ない。やるしかないんだ。でも大丈夫。
全て終わったら、に一番に会いに行くから。
そしてもう何処にも行かないと約束して、抱きしめよう。
君の不安が、寂しさが、消え去るように。
an eternal oath
だけど、永遠に叶うことはなかった誓約
(070604)
photo by 塵抹