ベッドに潜り込み。
暗闇の中、目を閉じると。


怖いんだ。
言い様の無い不安が襲い掛かってきて、怖いんだ。



今日も眠れない。







魔法の手




部屋からこっそり抜け出して、誰もいない食堂で一人。
窓枠に肘をついてじっと夜空を眺めていた。


最近、何だか眠れなくって。
あたしはよく此処で明け方まで時間を潰す。






Lが死んだ。







確かにロジャーはそう言った。

そして、その次の日にメロはワイミーズハウスを出て行った。





永遠に続くと思っていた日常が。

当たり前の様に隣にいてくれたはずの人々が。






……急に、あたしの目の前から消えてった。


















ガラガラッと後ろで扉の開く音がして。

だるそうに頭を掻きながら、マットが食堂に入ってきた。





「なぁーにしてんの?こんな真夜中に。」
「んー、なんか眠れなくって。そっちこそ、どうしたの?」
「オレは喉が渇いちゃってさー。」




入り口のすぐ横にある冷蔵庫からペットボトルに入った水を取り出し、マットはあたしの方へ近づいて。

傍にあった椅子に座ると蓋を開け、水を口に含んだ。

あたしの目線はごくりと動くマットの喉元。

“飲む?”そう言いたげにあたしにペットボトルを差し出すマット。
あたしはこくりと頷いて小さく礼を言い、ペットボトルを手にした。






「ねぇ、さー。ここんとこ、ずーっとちゃんと寝てないだろ。」

「…そんなことないよ。」

「ウソだ。のここ、すごい隈。」


マットは自分の目の下を指先でなぞって、“Lみたい”そう言ってにやっと笑う。



そんな彼から視線を逸らし、あたしは俯いてペットボトルを見つめた。

マットからもらった水は思った以上に冷たくて。

まるで口に含んだ瞬間からあたしの全てを悟られてしまうみたいに、口から喉を通り抜け、体中に行渡るのを感じる。






「せっかくの可愛い顔が台無しだよ。……どうしたの?何かあった?」






幼い頃、彼のゴーグルは人の気持ちが読める特別なゴーグルなのでは、と疑ったことがある。

どんなにうまく隠してたつもりでも、マットにはいつでもバレてしまって。






「……不安なの。」






マットに対する甘えからくるものだろうか。
ぽろりと本音が零れ落ちた。



「Lが死んじゃって、メロが出て行って。じきに……、ニアも此処を出て行くでしょ?」





一度口に出してしまうと、堰を切った様に心の不安が言葉になって溢れ出る。



「あたし、何だか怖くって。みんな、みんな…いなくなっちゃう。」



朝になったら消えてなくなってしまいそうで。

あたしが少しでも目を閉じたら、何もかも失ってしまいそうで、不安で。





「置いてけぼり。あたしを置いて、何処かに行っちゃうんだ、きっと……。」







言い終わって、あたしは我に返った。




弱い自分を曝け出し、

……何言ってるんだろう、自分。



こんなことを言ったってどうにもならない。

マットを困らせちゃうだけなのに……。



ペットボトルを握る手に力が入る。

マットは何も言わない。

何だか自分の弱さが恥ずかしくてマットの顔も見れず、ただただ俯きながら突発的に思いをぶつけてしまった自分を恨んだ。







「ご、ごめん。今のなし!忘れて?精神弱すぎ、あたし!ずっとみんなで仲良しゴッコなんか無理に決まってるのにね。
いつかはあたしだってここを出ていくんだし。最近少しセンチメンタルな気分に浸ってただけ。馬鹿みたい、だね?」


アハハッ。そう笑ったあたしの笑い声は、食堂にむなしく響いて……。










沈黙が痛い。








どうしよう、本当にあたし馬鹿みたい。
壁に寄りかかり下を向きながら、あたしは目をぎゅっと瞑った。

すると椅子を立ち上がるマットの気配と同時に、右手に暖かい体温を感じて。
次の瞬間、あたしはマットに手を引かれて走りだしていた。




「え、ちょっ、マット!何処に・・・」


「しーっ、みんな寝てるから静かに。」



暗く冷たい廊下を走りぬけ、階段を駆け上がり、マットの手に導かれるまま自分の部屋へと到着する。



「ほら、早くベッドに入って!」

「……え?」

「いいから!」





言われるままに、あたしはベッドの中へと潜り込んだ。

マットはあたしの勉強机の椅子をベッドに寄せて、布団からあたしの手を取り出して強く握って。











「オレが、の傍にいてあげる。」









真剣な眼差しでそう言った。

頬と握り締められてる右手がすごく熱い。






「こうしてれば、寂しくないし怖くないだろ?」


「マット……。」


「朝までずっと手、握っててあげるから。」

「それじゃ、マットが寝れないじゃん。」
「ダイジョーブ。気にしないで。オレは授業中にでも寝れるし。」


そう言って、空いてるほうの手であたしの髪をくしゃくしゃに撫でながら優しく微笑むマット。





を置いてけぼりなんかにしない。オレがいる。それに全部終わったら、メロもニアもまた
の傍に戻ってくるから。だから何も心配すんなよ。ぐっすり寝て、いつもの元気なに戻って?」






マットの優しさが痛いほどに伝わって、あたしは涙が出そうになった。


「おやすみ、。」






右手から伝わるマットの体温は、あたしのちっぽけな不安を嘘みたいに消し去った。

もうあたしは寂しくない。


「ありがと……ありがとう、マット。」

































(・・・ごめんなさい;  20070327 加筆・修正20070508)