「…あっ。あのお店、閉めちゃったんだぁー」
変わってゆく、物も空気も景色も人も……。
気が付かないうちに、ちょっとずつ。少しずつ。
どこに向かっていけばいいのか分からずに足踏みしているあたしは、取り残されてく気分になった。
二人の距離
年を重ねる毎に素直じゃなくなった、と思う。
あたしは傷つくことを恐れて防具ばかりを手に入れた。
年を重ねる毎に言いたいことが言えなくなった、と思う。
毎年頑丈になっていく装備はあたしの足取りを重くするだけ。
夏の夕方はひどく憂鬱。
気分転換に町に出てきたものの、することもなくつまらないだけ。
ふと辺りを見渡せば、嫌でも色んなものの変化に気づいてしまう。
……あ、あの看板も変わったんだ。
あたしの知らないうちに世界は変化をし続ける。
一護も変わった、と思う。
隣にいたはずなのに、いつの間にか一歩前にいた一護。
ねぇ、一護。もしかしてあんたも気付かないうちにこの町の景色みたいに、あたしの全然知らない一護に変わっちゃうのかな?
「おい、道の真ん中で突っ立ってんじゃねぇよ。、邪魔」
突然後ろから聞こえた声に吃驚して振り返る。
そこには自転車に跨って眉間に皴を寄せた青年がいて。
生温い風がオレンジ色の髪をゆっくりと揺らしていた。
「……なんでここにいるの?」
「あぁ!?俺がここにいちゃいけねーのかよ」
「ち、違くて、旅?…に出てたんじゃなかったの?」
「昨日、帰ってきた」
夏休み中はずっと旅に出てて家にいないって一心さんが言っていたから驚いた。
まさか偶然道の真ん中で会えるとは思ってなかったから。
久しぶりに見た一護はまた一段と別人みたくなっていた。
この短い夏休みの期間にどこがどうゆう風に変わったのかと聞かれれば、それは返答に困るんだけど。
なんとなく違う。いつもの、今までの一護とは違う。
「ふーん。どっか行くの?」
ずっと隣にいた、あたしには分かる。
なんかやっぱり違うんだ……。
「いや、家帰るとこ」
また一歩、一護があたしから離れた感じ。
胸ん中がざわざわするよ……。
「ラッキー」
「おい、ちょっ、お前なんで勝手に!」
「いいじゃん。通り道でしょ、送ってよ」
一護の自転車の後ろに飛び乗る。
心に浮かんだ不安を少しでも悟られないように、あたしはおどけてみせたんだ。
「しょーがねぇなぁ」
文句を言いながらも、あたしを乗せて自転車を漕ぎ出す一護。
口は悪いし、目つきも悪い。
でも、優しいんだ。
そこは変わってない。変わらないよね。
そんな所が好きなんだ。
ゆっくりと走り出す自転車。
一護の背中は思ってる以上に広くて大きかった。
こんなにも近くにいるのに、どんどん一護が遠ざかっていく気がして。
あたしは思い切り背中にしがみ付く。
「……あんまくっつくなよ。」
「ん?なんで?おっぱい当たる?照れてんの?」
「、テメェー。…降りろ!」
「いーやだっ!」
自分だけ成長してない気がして、そんな自分が格好悪い気がして。
弱い自分を知られたくないから、無理して強がって冗談を言う。
ホントはそんなことじゃなくて、一護に言いたいことがあるんだ……。
あたしの世界では何も起こってないけど。
ねぇ一護。あんたの世界では何が起こっているの?
「……置いてかないで。」
一護の背中に回した両腕にまた少し力を入れて。
一護には聞こえないようにそう呟いてみた。
“置いてかないで”あなたに届かないその言葉は、夏の憂鬱な生暖かい風と共に流れていった。
(幼馴染な感じです。2007.2.20 ぷち修正20080107)
photo by 七ツ森