ベランダから取り込んだ布団をベッドに敷きなおし、そこに勢い良くダイブして顔を埋めると、ふわ
っとお日様の匂いが体中を包み込んだ。
長時間夏の太陽に当てられていたそれは十分に熱を帯びていて、寝転がるだけでも布団に接している
お腹のあたりや首筋にうっすらと汗が浮かび上がってくるのが分かる。
開放された窓から時折流れ込む弱々しい風がとても気持ちいい。
わたしは干したての布団がたまらなく好きだ。
ふかふかした肌触り、独特の匂い、適度な温度。
まるで太陽に包み込まれているみたい。
体中に幸福感が満ち溢れてくる。
このまま眠ってしまおう。
そう思った瞬間にどさっと上から音が聞こえ、ベッドのスプリングがギシっと軋んだ。
「真子」
「……」
「真子、重い」
急に上に覆いかぶさってきた彼に対して不機嫌そうにそう言うと、真子は無言でわたしの腰に両腕を
回してからごてっとわたしの体を横に向けさせ、右足を体に絡ませてきた。
密着してきた真子の所為で時折吹く風すら届かなくなる。
「ねえ真子、どいて」
「いやや」
「暑いからどいて」
「暑ないやん」
「……」
「俺は暑ないわー」
「暑い。汗でべたべたして気持ち悪い。とにかく暑い」
「暑いときには熱いもん食えって、よう言うやろ」
「それとこれとは違うから。ねぇ、どいて」
わたしが真子からどうにか離れようともがき始めると、いやや、ともう一度そう短く呟いて真子は腕
や足にぎゅっと力を入れた。
暑い。
二人分の体温が重なって、わたしが動けば動くほどじわりじわりと汗がにじみ出る。
テレビからはお昼のニュースが流れ出し、窓の外からは子供たちのはしゃぐ声が聞こえていた。
summer days
―――――ピッ。
(あ、今クーラーつけたでしょ?)
(……)
(やっぱ真子も暑いんじゃん)
(俺は平気やけど、のために)
(うそばっかり)
汗を掻いた額を涼しい風が撫でた。
冷たい空気と心地のいい体温とふかふかの布団。
いつも以上に上機嫌な真子の下手な鼻歌が耳に届く。
やさしい世界に包まれて、あたしはゆっくりと目を閉じた。
(クーラーをつける時は窓閉めるべきだった 20070829)
photo by Rain Drop